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NOTES

暴君シン様。 

# 067

暴君シン様。 

2026

THOUGHT

思い出すだけで恥ずかしい。

穴があったら入りたい。

その昔、僕にはイケイケで、ずいぶんイキっていた時代があった。

社内では、暴君絶好調。

それだけならまだしも、あろうことか会社の外に出ても、暴君全開だった頃がある。

店でも。

ホテルでも。

買い物でも。

自分が客になると、なぜだか少し偉くなったような気になっていた。

今思えば、

何様だったんだ、お前は。

である。

若気の至り。

そんな便利な言葉で片づけていい話でもない。

嫌な思いをさせた人もいただろう。

困らせた人もいただろう。

僕が忘れているだけで、向こうは覚えていることだってあるかもしれない。

申し訳ありませんでした。

今さらではありますが、本当に反省しております。

もう神様、

許してください状態である。

そんな反動もあってか、現在の僕は、

聖人君子ここにあり。

仏のシンさんである。

……自分で言うことではない。

でも少なくとも、外で人と接するときは、昔とは比べものにならないくらい丁寧になった。

買い物をするとき。

飲食店に行ったとき。

ホテルに泊まったとき。

タクシーに乗ったとき。

誰かに何かをお願いするとき。

相手が気持ちよく仕事できるようにしたいと思う。

「ありがとうございます」

も、できるだけちゃんと言う。

こちらが客だからといって、相手より偉いなんてことは当然ない。

むしろ、自分がサービス業をやっているからこそ、働いている人に余計なストレスを一つも与えたくないと思うようになった。

その結果、最近では、

券売機にすら優しく接している。

ボタンを乱暴に押さない。

お札を無理に突っ込まない。

釣り銭の出口をガチャガチャしない。

「お前も毎日、大変だな」

くらいの気持ちで接している。

少しでも耐用年数が延びますように。

故障しませんように。

他人様の設備なのに。

ここまで来ると、反省というより贖罪なのかもしれない。

ただ。

人間というのは、そう簡単には生まれ変わらない。

僕の中から暴君が完全に消滅したわけではない。

例えば、時間に追われているとき。

こちらは急いでいる。

でも対応がものすごくスロー。

話がなかなか進まない。

要領を得ない。

そんなとき。

僕の中のどこかで、

カチッ。

と音がする。

いる。

まだ、いるのだ。

暴君シン様が。

「俺に代われ」

と奥の方から出てこようとする。

危ない。

非常に危ない。

仏のシンさん、

ここが踏ん張りどころである。

たぶん、人間はそう簡単に別人にはならないんだと思う。

昔短気だった人が、ある日突然、短気ではなくなるわけではない。

傲慢だった人間の中から、傲慢さが跡形もなく消えるわけでもない。

僕の中にも、昔の僕はちゃんといる。

だから大事なのは、

自分の中に何がいるのかを知っていること

なんじゃないかと思う。

僕の中には暴君がいる。

だったら、暴君が出てきそうな瞬間を知っておけばいい。

時間に追われているとき。

思い通りに進まないとき。

相手の対応が遅いと感じたとき。

自分に余裕がないとき。

そんなときほど、

「あ、いま俺、危ないな」

と思う。

そして一度、飲み込む。

相手には、相手の事情がある。

慣れていないのかもしれない。

今日が初日なのかもしれない。

何か別のトラブルを抱えているのかもしれない。

そもそも、僕が勝手に急いでいるだけなのかもしれない。

考えてみれば、

僕が時間に追われていることなんて、相手には何の責任もない。

これは結構、大事なことだと思う。

自分に余裕がないとき、人はその不機嫌の請求書を、つい目の前にいる人へ渡してしまう。

でも、その人は払う必要なんてない。

僕自身、昔はずいぶんそれをやってきたんだと思う。

だから今は、できるだけやらない。

完璧ではない。

聖人君子と言ったばかりだが、撤回しておく。

仏のシンさんも、たまに修行不足である。

それでも、昔よりは自分を見られるようになった。

これは僕にとって、結構大きな変化だ。

65で、

「お客様は神様です。」を、そろそろ終わりにしよう。

と書いた。

66では、

「客じゃない。お客様だ。」

と書いた。

偉そうなことを二本も続けて書いたので、ここで白状しておく。

昔の僕こそ、かなり嫌な「客」だった。

だからこそ今、思うこともある。

お客様と働く人が互いに敬意を持つ。

言葉にすると簡単だけれど、それを本当にやるには、自分自身に余裕が必要だ。

そして、自分の機嫌くらい、自分で面倒を見なければならない。

相手を変えるより先に、自分の中の暴君をどう扱うか。

僕の場合は、たぶん一生これが続く。

だから今日も、

暴君シン様には奥で静かにしていただいて、

仏のシンさんで外へ出る。

そして券売機にも、

そっと触れる。

長生きしろよ。


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