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THE SHICHIMAN 僕の中には、七人の嫌な奴がいる。  

# 068

THE SHICHIMAN 僕の中には、七人の嫌な奴がいる。  

2026

THOUGHT

前回、「暴君シン様。」という、できれば墓場まで持っていきたかった話を書いた。

社内外を問わず暴君絶好調。

そんな暴君真っ最中だった頃のことだ。

ものすごく賢い人から、ある話を教えてもらったことがある。

七慢。

仏教の言葉である。

僕はその頃、仏教を熱心に勉強していたわけでもない。

自分から「七慢について教えてください」とお願いしたわけでもない。

たぶん、

僕の暴君っぷりが目に余ったのだと思う。

ただ、その人は、

「お前は傲慢だ」

とは言わなかった。

「その態度を直せ」

とも言わなかった。

七慢というものがあるんだよ、と。

上手に、上手に、説いてくれた。

賢い人というのは、こういうものなのかもしれない。

正面から殴らなくても、人に気づかせることができる。

当時の僕がどこまで理解できていたのかは分からない。

ただ、不思議なことに、その話はずっと僕の中に残った。

今でも、ことあるごとに復唱する。

七慢とは、人間の「慢」、つまり驕りや思い上がりを七つに分けたものだ。

慢。

自分より劣る人を見て、

「自分の方が上だ」

と思う。

同じくらいの人を見て、

「まあ、自分と同じくらいだな」

と思う。

もうこの時点で、ちゃんと嫌な奴である。

過慢。

自分と同じくらいの相手に、

「いや、俺の方が上だ」

と思う。

自分より優れた相手を見ても、

「まあ、俺と同じくらいだろう」

と思う。

出てきた。

かなり知っている奴だ。

慢過慢。

自分より明らかに優れている人に対してさえ、

「いやいや、俺の方が上だろ」

と思う。

強い。

ここまで来ると、なかなかの暴君である。

我慢。

ここでいう我慢は、

「辛いけど我慢しよう」

の我慢とは少し違う。

自分というものに強く執着して、

自分の考え、自分の立場、自分の価値観にしがみつく。

「俺はこうなんだ」

「俺は間違っていない」

「俺のやり方が正しい」

これも危ない。

経営者なんて、毎日これとの戦いかもしれない。

増上慢。

まだそこまで到達していないのに、

「自分はもう分かっている」

と思ってしまう。

できてもいないのに、できていると思う。

知らないのに、知っていると思う。

これも怖い。

少し商売がうまくいった。

少し人より経験した。

少し褒められた。

少し会社が大きくなった。

そんなとき、

こいつは静かにやってくる。

卑慢。

これは少し面白い。

自分より圧倒的に優れた人を見て、

「そりゃあの人の方が上だけど、俺だってそんなに悪くない」

と思う。

負けを認めているようで、

まだ自分を持ち上げている。

人間というのは、本当に器用だ。

へりくだりながらでも、慢心できる。

邪慢。

本来、誇るべきではないものを誇ってしまう。

間違ったことをしているのに、

それを自分の能力や強さだと思ってしまう。

昔の僕なら、

強引に物事を進められることを、

「決断力がある」

と思っていたかもしれない。

人を言い負かすことを、

「頭の回転が速い」

と思っていたかもしれない。

相手を黙らせることを、

「リーダーシップ」

だと思っていたかもしれない。

これが一番怖い。

欠点に、自分で格好いい名前をつけてしまう。

そうすると、直すどころか磨き始めてしまう。

こうして七つを並べてみると、

僕は思う。

暴君シン様は、一人ではなかった。

七人いた。

多いな。

でも、この七慢を教えてもらってから、僕の中に一つの物差しができた。

誰かを見て、

「なんでこんなこともできないんだ」

と思ったとき。

誰かの話を聞いて、

「そんなこと、とっくに知ってるよ」

と思ったとき。

自分と違う意見に、

「いや、俺の方が正しい」

と瞬間的に反応したとき。

仕事がうまくいって、

「やっぱり俺はすごいな」

と思いそうになったとき。

七慢のどれかが、ひょこっと顔を出す。

あ。

お前、いま出てきたな。

と思う。

もちろん、七慢を知ったからといって、僕から慢心が消えたわけではない。

そんなに簡単なら、仏教も2500年も続いていない。

今でも普通に出てくる。

たぶん一生出てくる。

でも、

知らずに傲慢でいるのと、自分の傲慢さに気づけるのとでは、ずいぶん違う。

これは、あの頃の僕に七慢を教えてくれた人からもらった、とても大きなものだと思っている。

そして今になって思う。

あの人は、僕を論破しようとしなかった。

説教もしなかった。

暴君だった僕のプライドをへし折ろうともしなかった。

ただ、

「こういうものがあるよ」

と置いていった。

あとは僕が、自分で気づくのを待ってくれた。

僕が今、経営者との対話で大切にしたいと思っていることにも、どこか通じているのかもしれない。

人は、正しいことを言われたから変わるとは限らない。

むしろ自分で、

「あれ。もしかして俺のことか?」

と気づいたことの方が、ずっと長く残る。

僕の場合は、それが七慢だった。

何十年経っても覚えている。

ことあるごとに復唱している。

暴君シン様は、以前ほど表には出なくなった。

でも安心はしていない。

僕の中には、

慢がいる。

過慢がいる。

慢過慢がいる。

我慢がいる。

増上慢がいる。

卑慢がいる。

邪慢がいる。

THE SHICHIMAN.

七人の嫌な奴ら。

今日も全員、

僕の中にいる。

だから、ときどき点呼する。

一、二、三、四、五、六、七。

よし。

全員いるな。

困ったものだ。


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